第10回
示談書・合意書の作成 と注意点(示談書のひな形付き)
1 示談書作成の必要性
示談書は①「お互いの責任の範囲を明確にする」②「再び請求されることを防ぐ」という2つの意味において非常に重要です。
ご本人同士で作成された示談書は、この①②の目的達成に不十分なケースが多く、実際に示談書の内容を巡って再度トラブルとなることが多いです。
したがって、示談書はしっかりと作らなければいけません。不安であれば弁護士に確認した方がよいでしょう。
以下では、示談書のひな形を用いて作成時の注意点を解説します。
示談書
〇〇(以下、「甲」という。)と、××(以下、「乙」という。)とは、乙が甲の配偶者である△△(以下、「丙」という。)と不貞行為に及び、甲に対して精神的損害を与えた件(以下、「本件」という。)につき、下記のとおり示談した。
記
1 乙は、本件について真摯に反省し、甲に対し、謝罪する。
2 乙は、甲に対し、本件の示談金として金○○円の支払義務があることを認める。
3 乙は、甲に対し、前項の金員を、令和○年○月○日限り、甲が指定する下記の銀行口座に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
記
銀行名:〇〇銀行
口座種別・番号:〇〇××△△
口座名義:〇〇 〇〇
4 乙は、甲に対し、今後、正当な理由なく、丙に接触をしないことを約束する。
5 甲及び乙は、本件に関する情報をみだりに口外しないことを相互に約束する。
6 甲及び乙は、甲と乙の間には、本件に関し、本示談書に定めるもののほかに何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する。
本合意締結を証するため、本書を2通作成し、甲乙は各自1通を所持する。
令和○年○月○日
(甲)
住所:
氏名: 印
(乙)
住所:
氏名: 印
2 作成時の注意点
(1)何に対する示談なのか特定する
ひな形の「本件」の部分を見て下さい。
このひな形では、「本件」=「乙が丙と不貞行為に及び、甲に精神的損害を与えたこと」と記載し、何に対して示談しているのか特定しています。
事案によって「本件」の内容をより詳細にすることもあります。
悪い示談書の例として、「甲と乙は、以下のとおり示談する」「乙は甲に対して、〇〇円を支払う」とだけ記載されている示談書をよく見ます。
このような示談書の場合、何に対して示談しているのか不明確です。場合によっては、示談後、再び請求される可能性がありますので注意して下さい。
(2)誰と誰の示談なのか特定する
ひな形の冒頭「〇〇(以下、「甲」という。)と、××(以下、「乙」という。)とは、」の部分を見て下さい。
この記載のとおり、この示談書で義務を負う当事者は「甲と乙」であって、「丙」(不倫をした甲の配偶者)は含まれていません。
例えば、「甲」が、再び「丙」(不倫した自分の配偶者)が「乙」と不倫することを防ぐため、「丙は、乙に今後接触しない」という条件をこの示談書に記載したとしても、「丙」は示談の当事者ではないですので、丙は何ら義務を負わないことになります。
「誰と誰が」示談によって権利や義務を負うのか特定するようにして下さい。
(3)金額、支払方法(一括払い・分割払い)、支払期限について明記する
言うまでもないことですが、「いくら支払うのか」「どのような方法で支払うのか」「いつまでに支払うのか」は示談するにあたって重要ですので、明確に記載して下さい。
なお、銀行振込で支払う場合、手数料は支払う側(今回は「乙」)が負担することが通常です。
(4)慰謝料以外の条件についてしっかり確認する
この示談書のひな形の2項と3項以外の条項が慰謝料以外の取り決めの部分です。
示談書に記載されている以上、義務を負いますので示談の際は内容や表現をよく確認することが必要です。
よく問題になる条件については第8回「慰謝料以外の要求への対処」で詳しく解説しています。
(5)清算条項は必ず入れる
示談書のひな形の第6項部分が清算条項と呼ばれる条項です。
「本示談書に定めるもののほかに何らの債権債務が存在しないこと」
すなわち、この示談書に記載の権利と義務以外は、甲と乙に他に何も権利や義務がないことが記載されています。
この条項があることによって、再び今回の不倫トラブルについて請求されなくなるのです。
したがって、この条項が示談書の作成では最も重要です。
今回は解説のために示談書の内容をシンプルにしてありますが経験上、事案によって内容は様々です。
不安に感じられる方は、示談書作成について弁護士に相談された方が良いでしょう。
レイ・オネスト法律事務所では、示談書作成のサポート・内容チェックだけのご依頼もお受けしております。